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朝ドラ「寅に翼」雑感

カテゴリー:日々清々 更新日時 2024/08/23

 最近、固い話ばっかりだったので今回は朝ドラ「寅に翼」について語ってみる。 老健を廃止してクリニックだけになったので、出勤が30分遅くなり、おかげで40年ぶりくらいにリアタイで朝ドラを見られることとなった。「寅に翼」は日本で最初の女性弁護士で裁判官にもなった寅子さんの物語である。         

 

 男性主体の職業、結婚しても働き続ける女性が少数派だった時代に女性が医師を選ぶことの困難さがまだ色濃く残っていた約50年前、私は医学部を目指した。親が開業医で宿命つけられたようにその道を目指したとはいえ崇高な理想に燃えていたわけでもなく、何不自由なく6年間ほぼ男子集団の級友たちと学んでいたと思っていたが、「寅に翼」を見ていて、アルアル、ソウソウが私の時代にもあったということに今更ながら気がついたのだ。

 

 どこの医学部も女子数はクラスの1割弱。浪人と女性は合格の条件が平等ではないという噂もありつつ、私はなんとか一浪で公立医大に入学した。学生の間は特に差別されることもなく国家試験も平等に合格させてもらって無事医師免許を取得。

 そこで初めて差別と区別と不当な平等に遭遇する。科の選択で小児科と外科系で「女性は来なくて良い」という不文律が示された。理由は結婚・子育てがあるので「一人前に」働けないし出張に出せないからと。その不文律を見ないことにして敢然と入局した強者もいたがそこで働き続けることができた人は多くはない。

 私は早々にその土俵を降りて優しそうな教授のいる内科を選び、そこには差別もなかったけれど、次なるテキは同性の看護師集団と患者さん(家族?)だった。「女医さんかぁ」とあからさまにがっかりした顔をされるご家族。病状説明をするために来ていただいた私に背を向けて横にいる男医に向きあう人を私の方に振り向かせたときの互いの気まずさ。当直中、救急車の到着に真っ先に飛び出した私に吐物の入ったバケツを渡して救急隊員が叫ぶ「医者はどこですか?」「私ですけど」「えぇっ!」ちょっとしたコントです。でも、受け持ち患者さんの目の前で看護から意地悪されてたとき、患者さんは言って下さった。「先生、あんな看護婦ばかりじゃないから、がんばりなさい」 誰の職業人生においても未熟な時期があって、その頃の私にあるのは熱意と誠意。休みの日にも出勤して患者さんに接していた思いは通じていた。 有り難くて泣いた。がんばろう!と思えた。

 寅子の母のはるさんは言う「おてんとさまはちゃんと見ているからね」

(そのはるさんはつい昨日(の回で)亡くなった。寅子の号泣が胸を打ち、涙目で私は出勤した。NHKよ止めてくれ、私を朝から泣かさないでくれ・・・・)

 今この時も医師や弁護士やその他多くの職業・職場で自分の果たすべき役割を粛々と果たすために努力している女性たちがいる。私たちが今のように働けるその根幹にたくさんの荻野吟子(日本初の女性医師)や三淵嘉子(寅子のモデル)たちがいることを忘れないでいようと思うし、もっともっと女性(女性医師)の活躍の場を拡げるために私も尽力したいと思っている。

 

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