カテゴリー:地域で医療する楽しさ 更新日時 2010/06/03
過日、北海道プライマリケアネットワークによる、医師の後期研修プラグラム「にぽぽ」の修了生であり、私達の病院でそのプログラムの3年目を研修したO先生が診療応援に来てくれた。
「にぽぽ」のプログラムは地域でがんばりたいという医師を養成する後期研修のプログラムであり、北海道の地域の中で医師を養成しようというところにその特色がある。地域で働く医師は地域で育てようという高い志で始まった。
「地域医療崩壊」を謳い文句に人は集まらない。人が集まるためには、そこに、その人のためになる、喜びとなる何かを示せなくては、難しい。
犠牲摘精神を人にだけ求めるのは、無理というものだ。
長年、地域で医療をしてきて、私自身は、それがやりがいもあり楽しいと思ってきた。その想いを伝えたいと思ってネットワークに参加した。ただし、正直、こんな田舎の私的病院に来てくれる人がいるとは思っていなかったので、その志を応援したい、ぐらいの気持ちだった。
だから、O先生が私達の病院を3年目の研修病院として選択してくれたときには、嬉しいと同時に(正直に言えば)「どうしよう!!」という気持ちもあった。 せっかく選んでくれたO先生の1年という貴重な時間を無駄にしないで良い学びの場としてあげられるだろうか・・・・という不安だった。
知識も技術も賞味期限切れ間近のものもあり、都会では想像も出来ない田舎の現状もある。そのギャップに耐えられるだろうか?1年前の4月は不安と喜びの入 り交じったスタートだった。きっと赴任してきたO先生も同じ気持ちだったと思う。田舎の現状に唖然とすることもあったのではないだろうか。でも彼はその中 で、少しずつ、価値観の再編をしていったように思う。
都会で必要で、ここでは必要のないもの、ここでも必要であっても、実現困難なもの、必要はないがでも大切なもの、ここにはなくて、実はどうしても用意しなければいけないもの等々。
彼の助言を得て、整備されたものもあり、彼の中で、ここではなくても良いものと整理されたものもあり、少しずつ、状況は変化していった。
彼が当初の混乱の中から、この地で学ぶべきことを学び、取り置いて次の課題とするものを選び、そして、地域や人やスタッフに馴染んでいく様は、私にとっても喜びと学びの過程であった。
おかげで得た新しい知識も有り難かったけれども、自分たちが手なりでしていた医療の姿を彼という目を通して再認識できたことも有り難かった。
そして、彼が目指していた地域での医療実践、「患者さんに寄り添い、患者さんを幸せにする医療」こそが私たちを育て、癒してくれる医療でもあったこと。「患者中心医療」こそが医療の最も大切な核であること。を共有できたことは私にとっても大きな達成感となった。
足寄の生んだ偉大なアーチスト松山千春の「卒業」を聞きながら、彼の修了式に合わせて作ったアルバムを繰っていると、共に過ごした1年間が押し寄せてきて、涙で写真が少しぼやけた。
彼は今、自分の目指していたように北の大地の基幹病院で、自らの目指す医療実践の第一歩を踏み出している。研修医という立場から勤務医という立場となり、指導される立場から指導する立場となった。
それでも、忙しい間を縫って、しばらくの間、診療応援に来てくれると言う。
「この病院で学んだ感覚を忘れたくないから・・・・」
医者は医療する中で学び、育てられ、癒される。それは、患者さんや地域と関わり、信頼され、そして多分、愛されることでより大きく成長していくものなのだ と思う。確かに彼はこの地で信頼され、愛された。そのことを何よりも喜びたいし、この北の大地に根を下ろして、地域や患者さんを愛せる医者で在り続けて欲 しいと心から願っている。
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